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支払いがない!



 さて、離婚が成立しました。まずはめでたし、めでたし。3ヶ月は養育費の支払いもありました。ところが4ヶ月目から養育費が振り込まれてきません。パートの給料と養育費とでやっと暮らしていたのに!あんな奴から逃れたい一心で、財産分与も慰謝料も諦めて養育費だけはと思って、その支払いを約束させて離婚したのに、それさえも払わないなんて!貯金もわずかしかないこれじゃ2人の子と心中するしかない・・・


 そんなに思いつめなくても、方法はあります。


 まずは、そんなに追いつめられないようにするための注意です。



1. 口約束だけ

 

 養育費の支払いを口で約束しただけの場合、簡単にばっくれられます。「オレはそんなことは約束してない。3ヶ月ほど支払ったのは、息子が可愛かったからだ。約束したからじゃない。」とか、「養育費を払うとは言ったけど、金額まで決めてないだろう。今月から給料が下がったから、しばらく待ってくれ。」とか、「約束したというんなら、証拠を見せろ。」とかです。

 証拠がなくても、法律的に合意は成立します。しかし、相手がばっくれた場合、書類になっていない合意を裁判所で立証するのはとてもむずかしいことです。しかも、家庭裁判所に行って、金額は決まっていると言うと、それは家庭裁判所ではなくて地方裁判所で審理してもらうことですなんて言われて追い返されたりします。そればかりじゃなく、地裁で訴えたら証拠がないという理由であなたの主張が認められなかったりします。

 養育費について約束ができたら、それはできるだけ書類にしておきましょう。



2. 書類にした場合

 

 さあ、養育費の相談がまとまりました。それを紙に書いて、互いに署名・捺印しました。紙に書いていなかった場合よりはるかにましです。でも、これで十分とも言えません。

 書類と言っても、公証役場というところに行って公正証書にしてもらった場合と、単なる書類にした場合では、たいへんな違いがあります。

 まずは公正証書にした場合、その公正証書があれば、判決だの、調停調書だの、審判書だのがなくても、強制執行ができます。強制執行というのは、後で説明しますが、お家の競売だの、給料の差押えだのといったものです。「強制」ですから、相手方がイヤだと言っても止まりません。

 判決だの、調停調書だの、審判書というのは、裁判所に行って相手方を訴えたり、調停だの審判をしてもらってくる文書です。もっとも、敗訴したら、養育費だのを支払えという内容の書類はもらえません。

 合意を公正証書ではない単なる文書にした場合、強制力がありません。たとえば、給料の差押えだの不動産の競売をしようとしても、一度、簡易裁判所か地方裁判所に訴えを提起して、訴訟をやんなきゃいけません。

 訴訟にすれば必ず勝てるかというと、そういうわけでもありません。書類の内容が不十分でどんな約束かわからない場合があります。たとえば、「甲は乙に対し、養育費を支払う。」だけの文章だと、金額が決まっていないことになります。これで地方裁判所だの簡易裁判所だのに訴えを提起した場合、「これはここではなく家庭裁判所に行ってください。」と言われて、追い返されることがあります。あなたが金額は口約束だが決まっていると主張すれば、そうでもないのですが、その口約束を立証するのにたいへんな労力がかかります。労力をかけたからと言って、勝訴するとは限りません。

 書面の内容が明らかであったとしても、相手方が屁理屈をこねてくる場合があります。「書類には書かれてないが、余裕のないときには払える範囲で払うという約束があった。」とか言ってくる場合です。こんなときには、そんな約束をしていないと主張するために、いろんな証拠を集めたり、提出したりでたいへんです。時間もかかります。






3. 公正証書にした場合書類にした場合

 

 公証人が作ってくれるので、不明確だとか文章の解釈に迷うなんてことはあんまりありません。「相当額を支払う」なんて文章にしてくれとか公証人に言えば別ですが、そのときには公証人が「そんなんじゃ、公正証書にする意味がないんじゃないですか。」とか言ってくれるはずです。

 また、公正証書に「直ちに強制執行に服することを承諾した」というような文章があると、判決だの調停調書だの審判書だのがなくても直ちに強制執行ができることになります。そんな文書が必要な場合には、まず判決書だの調停調書だの審判書だのをもらうのに一度、強制執行を申し立てるのに一度、裁判所に行く必要があることになります。一度と言っても、これは一つの訴訟だの調停だのが必要になるということで、判決をもらおうとすれば、小一年はかかりますし、その間、何度も裁判所に行くことになります。

 公正証書を持っていれば、強制執行のために一度だけでよいということになります。とはいえ、あなたご本人が申立てをして、間違いだらけで、書類を突き返されたりすると、何度も空くことになります。

 いずれにせよ、養育費だの婚姻費用だのについて約束ができたであれば、できるだけ公正証書にしておきましょう。少し費用はかかりますが。

 公証役場の電話番号を調べて、電話しましょう。だいたいこんな内容だと言っておけば、後は公証人が考えてくれます。もっとも、検察官上がりの公証人は民法だのを忘れてて、ずいぶん変なことを言う場合があります。普通は公証役場の事務員さんがある程度わかっていて、公証人を指導してくれているようですが、それでも十分なものにならない場合があります。「民事の裁判官をされていた公証人にお願いできますか。」と言ってみるのが比較的無難です。

 公正証書とするためには、公正証書とすることについての相手方の同意も必要です。相手方に公証役場に出頭してもらうか、委任状をもらうことが必要です。相手方から委任状をもらうというのは、代理人を立てて相手方の代理人として公証役場に出頭してもらいます。この場合、委任状も簡単な者ではなく、合意の内容を書き込んだものが必要になります。

 代理人となってくれる人がいなければ、相談している弁護士に紹介をお願いしてみてください。私の経験では5万円程度で代理人として公証役場に出頭してくれる弁護士さんがいました。

 相談している弁護士さんがいない場合、法律相談センターというところがありますので、そこに行って、そこで会った弁護士にずっと相談をして進めてゆく方がよいでしょう。相談料はかかりますが、30分5,000円程度です。


 次に、合意が公正証書や調停調書、審判書になっている場合について説明します。 問題はどんな強制力があるかです。



4. 履行勧告

 

 調停調書や審判書で決まったのに。相手方が養育費だの婚姻費用を支払わない場合、裁判所から相手方に電話して、「ちゃんと支払ってはいかが」とか言ってくれます。文書を送ってくれる場合もあります。電話だけで受け付けてくれることもあるので、これが一番簡単です。

 簡単なだけに、相手方が支払わなければそれで終わりです。

 ただ、この方法は公正証書ではできません




5. 強制執行

 

 給料の差押えだの、不動産の競売だのといった方法ですが、養育費だの、婚姻費用だのについては、1ヶ月数万円というのが多く、ある程度貯まったとしても、数十万円程度です。この金額で不動産競売を申し立てることはコスパが悪く、あまり勧められません。そもそも、相手方が不動産を持っていなければ、この方法をとれないことは当然です。

 相手方の勤務先がわかっていれば、その給料を差し押さえるという方法があります。相手方にとっても生活の糧なので、法律上、全額を差し押さえることはできないことになっていますが、普通はお金になります。それに、給料が差し押さえられると会社に知れますし、給湯室のウワサ話で社員みんなが知ることにもなりかねません。恥っず~~~って感じですね。


 社員だって、個人の秘密を漏らしてはいけないことになっていますが、「ねぇ、ねぇ、ここだけの話だけど・・・」なんて言いながら、話題にしてしまうことはありがちです。それに「ここだけの話だけど・・・」なんて言われると、耳ダンボになるのは私だけじゃない気もします。ですから、給料を差し押さえるぞと通知しただけでも払ってくる場合があります。

 預金の差押えという方法もあります。それなりの残高がある場合には、差押え成功!ばんざ~い!でも、差押えたら残額が数十円ということもあります。


 強制執行の仕方がわからない場合はご相談ください。自分で申し立てたけど、窓口で書類を突っ返されたとかいう場合もご相談ください。強制執行をしたけど回収ができなかったというような場合にどうするかはむずかしい問題です。お電話をください。事情をお聞きして、いいアイデアを考えます。



6.まとめます。

 (1) 合意は文書にしておくこと。

 (2) 単なる文書よりは公正証書に。

 (3) 支払いを強制する方法はそれなりにあること

 (4) よくわからなかったら、私の事務所にお電話を。




 


 

木村法律事務所 03-5524-1552

東京都中央区銀座1-5-7 アネックス2福神ビル5階



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